鈴三|ブランドステイトメント

「二而不二」

二而はそれぞれに違っていること。不二は違いを内包する一たる全体。 而二不二とは、違っていながらひとつであることを表現する仏教の言葉です。この一見矛盾する言葉を紐解くことが、今回私たちが和装をつくっていくスタートになりました。

文化も、人も、土地も、世界を巡る中でその固有な性質を感じます。それと同時に、どこまで行っても共通するものに包まれる瞬間があります。

和と洋、西と東、男と女、光と影、古と今、一方があるから、もう一方がある。それは異なりながら、同じあらわれだということ。現代の生活で洋に馴染んだ私たちが共通する「もと」に触れ、新しく和の世界に足を踏み出すことは、形だけではない精神性への学びになると感じています。

<suzusan>は江戸時代にはじまる有松鳴海絞りの産地を背景に、2008年に創業した洋装のブランドです。400年以上の時代を経てこの地域に培われてきた手仕事から、新しい表現を模索し有松鳴海絞りの枝葉を豊かにしてきました。しかし一方で、職人の高齢化や商家の廃業により産地では幹となる和装の生産が年々難しくなり、その技術は消滅の危機の渦中にあります。そこで私たちは幹となるものづくりを後世に継いでいくために、2025年和装をあつかうブランド<鈴三>を新たに立ち上げます。

熱い染料の中で揺れる布を見ていると、絞りの技法は水の流れを可視化しているように感じます。絞りの布を身に纏うとき、身体は水の表情に包まれます。高揚と安らぎが同時にあり、みずみずしく潤う世界のなかで心身はかろやかに遊びます。それは他のいのちに触れて「違っているけれど、同じである」ことを身体が感じるからかもしれません。素材や技法を通じてあらわれる柄や形。人の手、長い時を経て辿りついた装いの型。それらが結晶した和装は、肌を覆う布以上の意味を帯びるでしょう。

現代において日常着ではなくなった着物に袖を通すことは、ひとつのインスタレーションのように、自己と世界に変容をもたらす経験になり得ます。和装には決まった型がありますが、不思議なことに、型を身につけるとかえってその人らしさがあらわれます。洋装と和装、違いを知ることで見える豊かさがあります。それぞれの場で持ち帰った学びはそれぞれに新たな感覚を持ち込んで、また私たちの洋装と和装を更新していくでしょう。

異なる背景の中にありながら固有の文化への敬意を基盤に、人をやわらかく包んで魅力を引きだす衣服。それが私たちが考える新しい和装の形です。

同じだけど違うこと。違うけれど同じこと。全てはひとつの流れのなかに。